七つの子の教育学

大学教員による七人の子育てと教育問題についての雑感

教員不足解消なるか、奨学金返還緊急支援事業(千葉県教育委員会)

かねてより課題となっている教員不足の解消に向けて千葉県教育委員会が大学生の奨学金の返済支援策を打ち出しました。先日高校を卒業した一郎(仮名:第一子)は高3になってから突然教員になりたいと言い出し、第一志望の教育学部に進学することになっています。これは我が家にとって朗報といえるかもしれません!

歴史的に見れば、明治期に近代学校制度を整える際、良質な教員の確保が喫緊の課題でした。当時の政府は、学校教育をおこなうためにはまず建物よりも人材(教員)を育てなければならないと考えたのです。ゆえに、1872(明治5)年に「学制」を発布するより前に教員養成のための師範学校(現在の筑波大学の前身)を創設したのでした。

それでも戦前は師範学校を卒業した正規の教員は少なく、代用教員など非正規教員が人材不足を補っていました。待遇のよくなかった小学校教員を確保するために、師範学校は学費がかからず、その代わりに卒業したら一定期間教員として働くことを義務づけられていました(義務年限制度)。こうした制度の名残は戦後も残り、奨学金(かつての育英会、現在の学制支援機構)の返済が教員に就職した場合に免除される制度として残っていたのです。

しかし、この教員の奨学金返済が免除される制度は平成期に終焉を迎えます。2000年前後に第二次ベビーブーマーの世代が大学を卒業し、教員のなり手が増えたこと、少子化が進行したことで教員の新規採用が減ってきたことなどが理由で教員採用試験の倍率が数十倍になりました。2000年代~2010年代の教員採用試験は高倍率の激しい競争となっていたのです。それがいまや教員はブラックと揶揄され不人気の職業になりつつあります。

これに加え、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」の一部改正が教員不足に拍車をかけていくでしょう。小学校の一学級の児童数を40人以下から35人以下にしていくというものです。当然、これまで以上に教員の数が必要となります。ただし、この件についてはもう少し丁寧に考えていく必要があるでしょう。学級編制にあたり教員一人当たりの児童数を減らしていくことが、本当に良質な教育の保証に結びつくかについては十分に検討する必要があります。

1学年に120名の児童がいた場合、優れた教員がA、B、Cと3人いて40人×3クラスを担当する場合と、一人教員が確保できず仕方なく採用した教員Dと4名で30名×4クラスを端とするのとどちらがよいのでしょうか?以前、ここでも書きましたように東京都の小学校教員採用試験の倍率は1.1倍です。ほとんど選抜の機能は果たしていない状況ですので教員の質については疑問符が付く場合が考えられるのです。

もちろん、この法令の改正が一人の教員の負担軽減になるとは思いますが、もう少し幅をもたせてもよかったのではないかというのが個人的な印象です。

 

冒頭の奨学金返還支援事業の話に戻ります。いずれにしましてもこの事業が教員不足の解消に向けて効果を発揮するかについて今後も注視していきたいと思います。

「なぜ、教員になる者だけに支援するんだ!不公平だ!」という方がいそうな気がして心配です。