七つの子の教育学

大学教員による七人の子育てと教育問題についての雑感

公立高校の共学化と多様性の問題

 先日、埼玉県立高校の共学化に関する下記のような記事がありました。男子校、女子校がある埼玉県の県立高校について共学化を求める勧告が出たことを受け、男女別の県立高校4校の同窓会の会長が4月18日に会見し、「学校を選択する多様性を奪うことになる」などとして、共学化に反対すると訴えたとのことです。

“埼玉県立高校の共学化反対” 男女別4校の同窓会長が会見|NHK 首都圏のニュース

 

 この件は、別学が古い制度で廃止すべき、現代の高校は共学化すべきのような単純な二項対立に陥りがちです。また、これに反論すると価値観の多様性を認めていないかのように責め立てられることもあり議論が難しい問題となっています。

 

 しかし、この「高校を共学化すべき」という主張は、ネット上に多くの反対意見が表明されているように、多様性の一つとして「別学」を認めることは適切ではないかと私も考えます。たとえば東京都は都立高校がすべて共学であっても進学実績の高い別学の私立が多くあるため選択肢に多様性が認められているといえます。

 下記のように在校生からも反対意見が表明されています(ただ、ここに女子校からの反対意見も加わっていると説得力が増すのですが…)。

 

埼玉県立高校への共学化勧告に 生徒からは反対意見相次ぐ | NHK | 埼玉県 

 

 この議論であまり強調されていないことがあります。それは、共学化したときに消滅するのは女子校だけで、男子校は伝統を保持したまま存続できることが多いということです。そもそもの共学化を求める勧告を伝えるニュースをみてみましょう。

 

問題視…男女別学の埼玉県立高校“共学化”早期に求める 苦情処理委が勧告 各校の伝統どうなる、注目は|埼玉新聞|埼玉の最新ニュース・スポーツ・地域の話題

 

 ここでは、県民から「県立の男子高校に、女子の入学は認められるべき」との申し出があったことが伝えられています。つまり、この問題は女子生徒が既存の男子高校(これが県のトップ校であることが多い)に入りたいということが主訴であると考えられます。

 これは、私がかつて住んでいた宮城県で20年ほど前に宮城県立高校の共学化の議論があり、リアルタイムでみてきました。ここでもほぼ同じ議論でした。男子のトップ校である仙台二高にも女子生徒を入学できるようにするべき、ということでした。

 その結果、宮城県の県立高校は共学化でどうなったのでしょうか。男子のトップ校である仙台二高や仙台一高はそのまま存続し、女子校であった宮城県立第一女子などは校名の変更を余儀なくされました。ただ、宮城県の女子校はは共学化の影響は少なかったといえます。

 一方、宮城県より先に共学化をおこなった福島県では、伝統ある女子校が大幅な名称変更(安積女子→安積黎明、会津女子→葵)や校歌の変更を強いられました。この共学化の改革は男子校と女子校で公平に行われていないと見做すこともできました。あまり触れられることは少ないですが、共学化された旧男子校に入学した女子生徒はかつて男子生徒向けに作られた校訓や校歌を歌って教育されます。これについては異論を唱えられることはあまりないのです。

 強調しておきたい点は、伝統ある男子校に通いたい女子生徒も多様性の一つですが、伝統ある女子校に通いたい女子生徒も多様性の一つであると考えます。