七つの子の教育学

大学教員による七人の子育てと教育問題についての雑感

「女性天皇」と「女系天皇」はまったく異なるのに「女性・女系」と並列表記するメディア

 5月17日から皇族数の確保策に関する与野党の協議が始まったとの報道がありました。

「女性・女系」議論は棚上げ 自民、保守層を意識 与野党協議、集約は不透明〔深層探訪〕(時事通信) - Yahoo!ニュース

 議論では、女性皇族の皇籍維持と旧皇族の男系男子の皇籍復帰案を軸に検討が進む見通しとのこです。今後、愛子さま天皇に、という国民の声が大きくなってくることが想定されているようにも感じます。かつて、推古天皇など歴史上に女性の天皇は存在したのだから男性だけに限定するのはおかしい、との意見があるともいえます。

 しかしながら、メディアでは(おそらく意図的に)報道されないですが、愛子さま天皇として即位されること(女性天皇)と、そのお子様が天皇に即位されること(男性であったとしても女系天皇)はまったく次元が異なります。簡単に申し上げれば、女性天皇は歴史上存在するが、女系天皇は(神話とされる時代も含めて)126代の今上天皇まで一人も存在しないのです。これをメディアでは、「女性・女系天皇」として一つの括りにして報道しているため、問題がわかりにくくなっているのです。

 では、女系天皇は何が問題なのでしょうか。考えられることをいくつか指摘しておきます。

 1つめ、女系天皇の誕生によって新しい王朝が始まる。ご存知のとおり天皇家には姓がありません。姓を名乗らないことで特定の家と距離を感じさせないためとも言われています。天皇家は皇族以外のどの家とも公平な距離を保っているからこそ国民の象徴たりえるのです。愛子さまがたとえば佐藤さんとご結婚され、そのお子様が天皇として即位したば場合、新たに「佐藤天皇家」が興ります。オーストリアハプスブルク家が婚姻によって「ハプスブルク=ロートリンゲン家」に変わっていくことと同様です。

 2つめ、この仮称「佐藤天皇家」が興った場合、本当にすべての国民が正当な天皇として認めることができず、国論を二分する争いが生じる可能性があります。新しい時代の女系天皇を認める立場もあれば、126代続いた男系男子を認めるべきだという立場もありえます。室町時代南北朝問題よりも深刻な国を二分する対立になる危険が生じるかもしれないのです。南北朝は双方に男系という正当性がありますが、女系天皇は新しい試みになるためその正当性を持ち得ないところに大きな危険を伴うのです。最悪の場合、こんなに揉めるのであれば、天皇制をやめて共和制にすればよいと考える国民も出てくるでしょう(左派系の最終的な目標はこの天皇制の打倒にあるでしょう)。

 我が国における天皇について考えるにあたり、国民に対する情報量が圧倒的に少ないことが大きな課題です。小中高の学校教育では、天皇は国民の「象徴」というぼんやりとした語句だけが示されるだけで、皇室の役割、神道との関係、他国の王族との違いなどについて語ることがタブー視される傾向は戦後一貫してます。最低限以下の知識の共有は必要ではないでしょうか。

  1. 今上陛下で126代を数える天皇家は世界最古の王朝である。(神話とされる時代を抜いたとしても)
  2. 中世以降の天皇家は権力をもって統治する立場ではなく、権威の象徴であった。(天皇家が権力を行使しようとすると国が乱れる傾向がある、後醍醐天皇など)
  3. ヨーロッパの王室とは役割が異なり、神道の祭祀をつかさどる。(ヨーロッパの王室は武人であるが、皇室はローマ教皇に近い)

 学校教育では、天皇家について「象徴」、「国事行為」程度しか教えていないため国民が天皇家について考えていくのは困難であろうと思います。また、左派にとってもっとも都合がよいシナリオは秋篠宮家を貶め、愛子天皇論を推進することにより、最終的に天皇家が途絶えていくことなのでしょう。

 わざわざここに記さなくても多くの有識者が正確な情報を発信してくださっていますので適切な判断がなされることを祈っていますが、あまりにもメディアの報道が偏っているため不安になります。個人的には、歌舞伎などの伝統芸能やアニメ・ゲームなどと同様に世界に誇れる日本文化の一つとして伝統を維持していくことを支持したいと考えます。

 いずれにしても、正確な情報を共有して国民の幅広い意見を取り入れて議論できることを祈っています。